弁護士コラム

相続と寄与分

Q:私の父親が先日亡くなりました。母親が早くに亡くなり、父親は5年以上脳梗塞で寝たきりの状態でしたので、私の妻が仕事を辞めて長男の嫁として、献身的に療養看護をしてくれました。兄弟は私を含めて4人いますが、父親の相続にあたって、妻に報いてあげる方法はないのでしょうか。

A:
1.
⑴ もし、お父さんが亡くなる前に意識がはっきりしていれば、あなたの妻に何らかの遺贈をする旨の遺言を作成してもらうか、あるいは、あなたの妻に生前贈与してもらうことができたでしょう。
しかし、お父さんが脳梗塞で寝たきりの状態では、それも難しかったのでしょう。
⑵ また、もし、お父さんの相続人がいない場合には、特別縁故者として、あなたの妻に相続財産の一部が分与されるという制度(民法958条の3)があるのですが、本件では相続人にがいる場合ですので、この制度も適用されません。
2.
しかし、これではあまりに不公平です。そこで、被相続人の財産の維持又は増加に「特別の寄与」をした相続人に寄与分を考慮する、「寄与分」制度(民法904条の2)について検討してみます。
本件の場合、あなたの妻が仕事を辞めてまでして、お父さんの療養看護に5年以上も努めたのですから、お父さんは介護費用の支出を免れているといえます。これにより、お父さんの遺産の減少が防止できたということで、「特別の寄与」をしたと考えられます。
この寄与分制度の場合、寄与した人は、相続人であることが要件とされていますが、あなたの妻が行ってきた療養看護が、あなた自身の行為と同視できるときは、あなたの「履行補助者」の行為ということで、あなたの遺産分割において寄与分が考慮されるでしょう。
3.
ただ、あなたは遺産分割で受け取った寄与分相当額をあなたの妻に贈与することになるのでしょうが、このとき、贈与税の問題がありますので、例えば、毎年110万円(基礎控除分)ずつ妻に贈与するなどの工夫が必要でしょう。
4.
以上のように、法律上、あなたの妻に直接報いてあげる方法には何かと限界がありますが、妻への一番の報いは、あなたや他の相続人が妻の療養看護の労をねぎらってあげると共に感謝の気持ちを伝えることかもしれません。

弁護士 田中宏幸