Q:「建物の現況」が借家契約の解約の際の「正当事由」の有無に
とって、どのような影響があるのでしょうか。
A:「建物の現況」とは、建物自体の物理的な状況、すなわち、建
替えの必要性が認められるにまで至っているかという事情をい
います。
例えば、建物が老朽化している状況にある場合が典型的です。
それ以外に、老朽化以外の原因により社会的・経済的な効用を
失っている場合も含まれます。
建物が倒壊する危険が迫っている程に朽廃するに至っている
ときは、賃貸人に建物の自己使用の必要性がなくても直ちに「正
当事由」が認められます。
建物が倒壊する危険が迫っていなくても、当事者間に建替え
建物の再利用に関する合意がある場合は、「正当事由」が認めら
れるでしょう。但し、賃借人が営業している場合は、建替期間
中の営業利益の逸失分を補完するための立退料の提供が必要に
なるでしょう。
これに対し、上記のような再利用の合意がない場合は、賃貸
人側の自己使用の必要性が優越することが必要です。あるいは、
立退料の提供などにより「正当事由」を補完する必要がありま
す。この場合、賃貸人に建物建替計画を実現する能力が認めら
れることが要件とされるでしょう。
弁護士 田 中 宏 幸