弁護士コラム

過労死column

2015.03.20

Q:夫は元々几帳面な性格なのですが、最近会社の仕事が忙しくて、残業時間が長くなり、帰宅はほぼ毎日夜の12時過ぎで、土日も出勤していました。ところが、ここ1~2週間ほど家でもボーッとしている時間が長く、しきりに疲れやすいと訴えています。神経内科の医師の診断では、うつ病とのことです。休みを取らせたいのですが、労災保険の適用は受けられるでしょうか。

A:
1.労災保険の適用を受けるためには、うつ病が業務に起因したものであることが必要とされています(これを業務起因性といいます。)。例えば、業務中に機械操作によって負傷した場合には容易に業務起因性が認められます。これに対し、本問のような精神障害の場合には、本人の素因等様々な事情が絡んでいるため、業務起因性の判定が複雑になっています。
2.そこで、厚生労働省は平成11年に業務起因性の判断指針を通達として出しました。これによりますと、3つの要件、すなわち
①判断指針の対象とされる精神障害(統合失調症、うつ病など)を発病していること
②その発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷があったこと
③業務以外の心理的負荷及び個体的要因によって発病したとは認められないこと
です。
3.ご質問の場合について検討しますと、
①については、うつ病(正確には「うつ病エピソード」といいます。)の診断がありますので、①の要件に該当します。
②については、さらに、指針で「心理的負荷」の評価についてランク分けをして詳しく判断基準を示しており、仕事量の増大や勤務時間の長時間化が顕著で、特に心理的負荷が過剰な場合には、②の要件に該当することになります。例えば、長時間労働の目安ですが、1か月当たりの残業時間が45時間を超えて長くなればなるほど、業務起因性が認められやすくなり、1か月当たりの残業時間が80時間を超えると業務起因性は強いと考えられます。また、休日のない連続勤務が長く続くほど業務起因性が強くなります。
③については、本人や家族、親友などの離婚・事故・重病・死亡等、本人の金銭関係のトラブル、災害等の有無や既往歴、性格傾向等の有無、程度が検討されます。本人の几帳面な性格という点は、それだけで問題とされることはありません。
以上のように、ご質問の場合は、労災保険の適用の可能性がありますので、労災事件を扱っている弁護士に法律相談されることをお勧めします。

弁護士 田中宏幸

06-6630-3005