弁護士コラム

生命保険金と特別受益column

2019.02.12

Q:父が死亡し、6000万円相当の遺産が残されていました。
ただ、父の死亡保険金900万円の受取人が長年同居してい
た長男になっており、長男が取得しました。
父の子供3人が法定相続人です。死亡保険金900万円を特
別受益として、遺産に持ち戻して遺産分割すべきではないでし
ょうか。

A:死亡保険金が特別受益に当たるとすると、死亡保険金900
万円を6000万円の遺産に持ち戻した6900万円を3等分
した2300万円が一人当たりの相続分になります。すなわち、
長男は1400万円(2300万円-900万円)、他の2人
は各々2300万円を取得することになります。
しかし、最高裁の判例(H16.10.29決定)は、生命保険金(請求
権)は、原則として、特別受益に当たらないとしました。
但し、① 保険金の額、② その遺産総額に対する比率、③ 保
険金受取人である相続人(長男)と被相続人(父)の同居の有無、
④ 保険金受取人である相続人(長男)及び他の相続人(2人)
と被相続人(父)との関係、⑤ 各相続人の生活実体等を考慮し、
保険金受取人である相続人(長男)と他の相続人(2人)との
間に生じる不公平が到底是認することができない程、著しいも
のであると評価すべき「特段の事情」がある場合には、特別受
益の民法の規定(903条)の類推適用により、遺産に持ち戻
して遺産分割を行うべきことと判旨しました。
上記の設問の場合、保険金の額が900万円であり、遺産総
額6000万円の15%に過ぎないこと、長男が長年被相続人
と同居していたこと等を考えますと、上記の「特段の事情」が
あるとは言い難いと考えられます。
裁判例で「特段の事情」が認められたケースは、保険金の額
が総遺産の50%をはるかに超えるような極端な場合に限られ
るようです。
従って、原則どおり、遺産総額6000万円の3分の1であ
る2000万円を、3名の相続人が各々取得するものと考えら
れます。結局、長男は2000万円に生命保険金900万円を
加えた2900万円を取得することになります。
弁護士 田 中 宏 幸

06-6630-3005